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フィッシュマンズは、ひとつの“宇宙”だ。
あまりにも美しく優しく淋しいメロディと、コトバ。エコーの深さが1ミリ違っても壊れてしまう、奇跡のバランスで構築される完璧なサウンド・ワールド。まさにワン・アンド・オンリーの宇宙。しかも、100人いれば100種類は存在する不思議な宇宙。彼らの音楽に魅了された者ならば誰もが、心の中に自分だけの“フィッシュマンズ宇宙”を持っているはずだ。だからこそ、フィッシュマンズはずーっと愛され続けるのだ。と思う。
それゆえ、わたしは最近まで大きなカン違いをしていた。
自分だけの“フィッシュマンズ宇宙”を溺愛するあまり、誰か他のミュージシャンがフィッシュマンズを歌うことなんて想像もしていなかった。あの音でなければ、そしてあの歌声でなければ「フィッシュマンズじゃない!」。と、勝手に思いこんでいた。
ごめん。ホントにバカだった。
よくよく考えてみれば、わかることなのに。
都会にしては妙に美しい夕焼けを見上げて歩きながら、ド音痴な「ひこうき」を小さく口ずさみながらナミダぐんでいたワタクシ自身の姿を思い出す。自分で言うのもナニだが、あれは最高にステキな“うた”だった。まぁ、他人がどう思うかは別問題として。
フィッシュマンズを愛する人の数だけ、違ったフィッシュマンズがいる。ということは、だ。歌う人の数だけ、違ったカタチをしたフィッシュマンズの“うた”があるはず。彼らは前人未踏の音楽スタイルを築きあげただけではなく、誰もが自由な気持ちで歌いたくなるようなスタンダード・ソングの数々を生み出してきたのだし。と、そんな素晴らしい事実にしみじみ気づかせてくれるのが本作、『SWEET
DREAMS for fishmans』だ。
参加しているのは、フィッシュマンズへの深い愛と敬慕にかけては誰にも負けないと自負しているであろう12組のミュージシャンたち。彼らの演奏からは、本当に大好きな曲を自分だけのやり方で表現することへの素直な幸福感が伝わってくるし。それぞれの自由なアプローチは、時代も世代も超えて愛されるフィッシュマンズ作品のスタンダード性をあらためて浮き彫りにしている。ひょっとしたら“カバー・アルバム”と呼ぶより、“愛唱歌集”とか“名曲集”なんて呼んだほうが似合いそうなアルバムだ。
痛快にグルーヴするスカ・バンドとしての頼もしさ。“90年代のポップス”としてのチャーミングさ。メロディとサウンドの独特のせめぎあいの中から生まれる浮遊感の不可思議さ。ソウル・ミュージックの歴史を遡りながら身につけていった衝動と躍動のプリミティブさ。そして、佐藤伸治のある種シンガー・ソングライター的な内省の深遠さ……。フィッシュマンズの音楽がはらんでいた様々な魅力の断片を、本作に参加した12組がそれぞれのまなざしでズームアップし、それぞれの個性的なフィルターを通して体現している。
フィッシュマンズと強い絆でしっかり繋がっていることを感じながら、自分にしかできない音楽を奏でることを楽しんでいる……。そんな彼らの“うた”は、多くの人たちの心にある“フィッシュマンズ宇宙”にも、新しい輝きを放つ星々として加わることだろう。すでに、わたしの“宇宙”では12コの星が燦然と光り輝いている。もちろん、ド音痴な「ひこうき」星と一緒に。……感謝(驚)。
2004年4月 能地祐子